2006年 09月 20日
新米先生 |
はあぁぁぁ、新学期が始まって2週間がたち、ようやく少しだけ足が地に付いてきた気がする。最初の1週間は何を期待されているのか、何をすべきなのかさえちゃんと把握できていなくて、ふわふわとしているうちにすぎてしまった。1週目が終わってはじめて、「このままではまずい」と遅ればせながら焦りだした。おかげで目を酷使しすぎたのか、ここ数日右目の下の涙腺がぴくぴくと痙攣しっぱなしで、人に気づかれたらかなり恥ずかしい状態だ・・・。
新米なので今学期は比較的楽な授業をうけもたせてもらっている。私の研究領域についての大学院生向けのセミナーと、Honors' Student(優等コースの学部生)向けのリレー講義の仕切り役、の2つである。
初めて教える大学院生のセミナーはまさしく私の研究領域ということもあって張り切っていたのだが、初回の授業はシラバスとリーディングを準備するのに追われてしまって、話す内容まであまり準備ができていなかった。そのせいか、どこかしまりのない初回になってしまい、大いに反省。他の先生から「初回の授業が全てを決めるのよ。その後にいくらがんばったって、学生の印象はそこでほぼ決まっちゃうんだから。」と言われてさらに焦った。2週目で何とか挽回しないとと、先週末は必死に準備をした。
セミナーは月曜日なので、学生には前日の日曜日の晩までに前もって私にreaction paper(意見や質問をまとめた短いレポート)をメールするように指定してあった。どんなコメントをみんなもっているんだろうと、どきどきしながら送られてきたペーパーを読んでみたら、みんな真摯に論文の内容と向かい合っており、その示唆するところを自分の研究や立場に生かそうとまでしている学生もいて、なんと表現していいかわからないのだが、素直に感動してしまった。自分が情熱を持っている事柄について、学生が情熱を共有してくれるのは研究者として、教育者として、冥利に尽きる。
それとともに5年前、自分がミシガンの大学院に入って最初に受けたセミナーのことを思い出した。一年目に受けた授業の影響はその後のスタンスを決める上で大きかった。私の教えているセミナーでも12人中一年生は3人いる。彼らのペーパーは論文の読解が少し甘いところもあるのだが、素直に何でも吸収しようと張り切っている姿勢があらわれていて、教える側としての責任の大きさに身の引き締まる気がした。引き締まりすぎたのか、その日は朝7時まで寝付けず、ほとんど寝ずに授業をすることになってしまったが、授業では学生がみんな熱心に発言してくれ、私が準備していった内容も全て話す時間がないほど盛り上がり、一安心した。
Honorsの方は30人の学部生に対して、大ベテランのK先生と私との2人で一緒に教えるということもあって、気楽でいいんだろうと思っていたのだが、これがあまかった。最初の数回は「心理学は科学か」等について、クラスでディスカッションするという形式。ミシガンにいた時から、TAとして30人の学生に議論させるというのはよくやったのだが、いつも体力と精神力を消耗していた。どんなに準備をしていっても、あらぬ方向から想像もつかない質問・発言をしてくる学生がいて、それに対してどう切り返すのか、それとも「いい質問だね。誰かこれに対してコメントある?」などと逃げるか、いつも真剣勝負だった。非常にいいポイントをついた質問だと(たとえ私に答えが思いつかなくても)対処のしようがあるのだが、困るのはポイントをはずれていたり、はずれているのかさえ不明な発言。どこがどう外れているかがわかればまだ学生をたてつつ、軌道修正できるのだが、外れているのかどうかさえ不明な質問に対しては、学生の意図を汲み取れて答えられるかどうかひやひやする。
Honorsのクラスはふたを開けてみれば、まさしくひたすらディスカッションだった。K先生がなげかける質問に対して、学生がてんでばらばらな答えなり意見なりをあちこちから言い、それをK先生がひたすらばしばし切り返していた。私はまるで卓球の試合のようなそのやりとりを、感動しながら横でほとんど見ているだけである。卓球だったらまだ前からしかボールが飛んでこないが、トピックが大きいだけに時々あらぬ方向からボールが飛んでくることもある(魔球?)のだが、どんな発言でも彼女は「今の質問はXXの点でいいポイントをついてるわね。それは大きな視野から見ると、ここの部分に位置づけられるけど、他にもこういう点が大事なのよ。」という感じで、非常に明瞭で学生をたてている上に、示唆深い!
見ていて大変勉強になるのだが、一応教える側として教壇に立っているのに、たまに横から補足を入れる以外はほとんど何も貢献できずにいるのは大変心苦しく、肩身が狭い。そんなことを今日の授業が終わった後にK先生と話していたら、「なんだかしきっちゃってごめんねぇ。いやー、でも学生が次から次へと質問してくるから、『これは私の瞬発力への挑戦かしら』って思ってはりきっちゃった。課題にした論文を私自身ほとんど読んでさえなかったのにね、はっはっはっ」とすがすがしく笑っていた。すごすぎる・・・。
などと感心している場合ではない。tenureまでの道のりは長そうだけど、千里の道も一歩からだ。
新米なので今学期は比較的楽な授業をうけもたせてもらっている。私の研究領域についての大学院生向けのセミナーと、Honors' Student(優等コースの学部生)向けのリレー講義の仕切り役、の2つである。
初めて教える大学院生のセミナーはまさしく私の研究領域ということもあって張り切っていたのだが、初回の授業はシラバスとリーディングを準備するのに追われてしまって、話す内容まであまり準備ができていなかった。そのせいか、どこかしまりのない初回になってしまい、大いに反省。他の先生から「初回の授業が全てを決めるのよ。その後にいくらがんばったって、学生の印象はそこでほぼ決まっちゃうんだから。」と言われてさらに焦った。2週目で何とか挽回しないとと、先週末は必死に準備をした。
セミナーは月曜日なので、学生には前日の日曜日の晩までに前もって私にreaction paper(意見や質問をまとめた短いレポート)をメールするように指定してあった。どんなコメントをみんなもっているんだろうと、どきどきしながら送られてきたペーパーを読んでみたら、みんな真摯に論文の内容と向かい合っており、その示唆するところを自分の研究や立場に生かそうとまでしている学生もいて、なんと表現していいかわからないのだが、素直に感動してしまった。自分が情熱を持っている事柄について、学生が情熱を共有してくれるのは研究者として、教育者として、冥利に尽きる。
それとともに5年前、自分がミシガンの大学院に入って最初に受けたセミナーのことを思い出した。一年目に受けた授業の影響はその後のスタンスを決める上で大きかった。私の教えているセミナーでも12人中一年生は3人いる。彼らのペーパーは論文の読解が少し甘いところもあるのだが、素直に何でも吸収しようと張り切っている姿勢があらわれていて、教える側としての責任の大きさに身の引き締まる気がした。引き締まりすぎたのか、その日は朝7時まで寝付けず、ほとんど寝ずに授業をすることになってしまったが、授業では学生がみんな熱心に発言してくれ、私が準備していった内容も全て話す時間がないほど盛り上がり、一安心した。
Honorsの方は30人の学部生に対して、大ベテランのK先生と私との2人で一緒に教えるということもあって、気楽でいいんだろうと思っていたのだが、これがあまかった。最初の数回は「心理学は科学か」等について、クラスでディスカッションするという形式。ミシガンにいた時から、TAとして30人の学生に議論させるというのはよくやったのだが、いつも体力と精神力を消耗していた。どんなに準備をしていっても、あらぬ方向から想像もつかない質問・発言をしてくる学生がいて、それに対してどう切り返すのか、それとも「いい質問だね。誰かこれに対してコメントある?」などと逃げるか、いつも真剣勝負だった。非常にいいポイントをついた質問だと(たとえ私に答えが思いつかなくても)対処のしようがあるのだが、困るのはポイントをはずれていたり、はずれているのかさえ不明な発言。どこがどう外れているかがわかればまだ学生をたてつつ、軌道修正できるのだが、外れているのかどうかさえ不明な質問に対しては、学生の意図を汲み取れて答えられるかどうかひやひやする。
Honorsのクラスはふたを開けてみれば、まさしくひたすらディスカッションだった。K先生がなげかける質問に対して、学生がてんでばらばらな答えなり意見なりをあちこちから言い、それをK先生がひたすらばしばし切り返していた。私はまるで卓球の試合のようなそのやりとりを、感動しながら横でほとんど見ているだけである。卓球だったらまだ前からしかボールが飛んでこないが、トピックが大きいだけに時々あらぬ方向からボールが飛んでくることもある(魔球?)のだが、どんな発言でも彼女は「今の質問はXXの点でいいポイントをついてるわね。それは大きな視野から見ると、ここの部分に位置づけられるけど、他にもこういう点が大事なのよ。」という感じで、非常に明瞭で学生をたてている上に、示唆深い!
見ていて大変勉強になるのだが、一応教える側として教壇に立っているのに、たまに横から補足を入れる以外はほとんど何も貢献できずにいるのは大変心苦しく、肩身が狭い。そんなことを今日の授業が終わった後にK先生と話していたら、「なんだかしきっちゃってごめんねぇ。いやー、でも学生が次から次へと質問してくるから、『これは私の瞬発力への挑戦かしら』って思ってはりきっちゃった。課題にした論文を私自身ほとんど読んでさえなかったのにね、はっはっはっ」とすがすがしく笑っていた。すごすぎる・・・。
などと感心している場合ではない。tenureまでの道のりは長そうだけど、千里の道も一歩からだ。
by goblue1
| 2006-09-20 09:54
| 研究